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母は枯葉剤を浴びた

母は枯葉剤を浴びた―ダイオキシンの傷あと
中村 梧郎 / 岩波書店




 ベトナムのグェン・ドクさんが12月に結婚するという話を聞いた。シャムツインズと呼ばれる奇形双生児、ベトちゃん・ドクちゃんの弟のほうである。ドクちゃんももう25歳、ホーチミン市の病院に勤務しているという。兄のベトちゃんは、脳障害が深刻で寝たきりのままらしい。
 下半身がつながって生まれたという彼らが「一人ひとり」になったのは1988年(昭和63年)、今から18年前のことだ。分離手術によるものだが、あの頃私は手術が成功するとは思っておらず、どちらかが犠牲になるのでは・・・と考えていた。しかし、兄弟とも現在、生きている。
 
 シャムツインズ(シャムの双生児)については、ベトちゃんドクちゃんの存在を知ったあと、上記の本(私が見たのは新潮文庫。その後改訂されて岩波書店から出版された)を読んだ。中学1年の頃だ。
 クラスの誰かが図書室で借りてきたこの本は、カラー写真でシャムツインズを多く紹介していた。ベト・ドクのように体のどこかがくっついたまま生きている双子から、既に命はなく、つながったまま水溶液に入れられた子供たちの写真まで。
 いつの間にかクラスの大人数がこの本を読むようになっていた。写真が目的だったようで、それらを見るたび子供らしい残酷な言葉で怖さを表していた。とても褒められた言い方ではなかったが、実際ホルマリン漬けの標本の姿は直視できないものがあった。
 テレビでは、手術前のベト・ドクの姿をよく見た。確か手術は困難、と言われていた頃だったと思う。そう聞いていたものだから、手術で切り離すというニュースを知ったときは驚いたものだ。
 
 ベトナム戦争終結、統一から30年経過し、「ベトナム戦後」世代が大人となった現在では、シャムツインズの存在もあまり知られていないのではないか。本当は知らないほうがいいのかもしれないのだが、私が生まれてからもいろんな出来事があって、時代が流れているんだなあということと、流されてしまわないだろうか、という少しばかりの不安も感じたりする。やがてはあの9・11や、イラク、イスラエルの紛争も。
 それが「平穏な日々を取り戻した」、という意味なら、いいのだけれど。
by lidth-s-jay | 2006-09-01 09:22 | 中学校専用